2022年6月5日に行われた「小金井市民の歯と口の健康2022」用に作ったポスターを再編集しました。
序
きっかけはツイッター。未だに転倒等で歯が抜けたら歯をシッカリと洗っている人がいる。とのことで。
例えば転んでそういうことが起きた場所が学校等の施設だったら、ある程度知識のある養護教諭が保健室から保存液を持ってきて抜けた歯を入れると思います。そういう教育を受けているし。
では、公園などでそういう教育を受けた大人がいない時は!?
ということで「歯と口の健康」で知ってもらおう。と思い立ちました。
目次
転んで歯が抜けた!?
子供の無事は?
歯を探せ!
歯根膜超大事!
歯根膜を守れ!
歯医者がやること
歯を戻せないこともある・・・
そのほかの外傷
外傷を起こしやすい年齢
あっ!歯がっ!!
抜けても30分~1時間以内に迅速な処置が出来たら、充分に歯は戻せます。
1:まずは、お子さんの無事を確認する。
歯も大事だけどお子さん本体(?)が一番大事。失神、痙攣しているとかしているならそちらの方を優先させて下さい。命あっての物種です。
抜けたところから出血があればまずは止血。ガーゼか何かでぎゅっと圧迫止血をしてください。
2:抜けた歯を探す。
抜けた歯が見つかったら歯の頭の部分(歯冠部)だけで持つように拾って下さい。
歯が汚れていたら冷水で優しく10秒以内で洗って下さい。
決して汚れているからとゴシゴシ擦らない!
それは何故かというと・・・
3:歯根膜がすごく大事!
歯は骨と「歯根膜」で繋がっています。それが生きていることがくっつくのに大事。
歯と骨の間の白いヤツ
抜けた根っこ見ると白いのついてきます。
だいーぶ昔はゴシゴシ洗えって言われていた時代もあったようですが・・・
この歯根膜が生きている間に抜けたところに戻したいのです。
だからゴシゴシじゃなくても、真水でずっと洗うのもマズイ。乾燥させるのもマズイ。
当然放置プレイもマズイ。
4:歯根膜を守れ!
だから歯の根っこを持たないで頭の部分を持ってね。となるわけです。
それを、学校等の施設ならだいたい「歯の保存液」が常備されているはずなのでそれに浸ける。
浸ければ半日以上保つと言われています。でも出来るだけ速やかに歯医者に。
「歯の保存液」がないなら、「生理食塩水」。
まぁ・・・歯の保存液はないけど生理食塩水はあるぜ!というご家庭がどのくらいあるかはともかく。
たとえば転んだ近所に歯医者はないけど内科や整形外科などあるならそこで生理食塩水を分けてもらう、とか?
ところで生理食塩水は作れます。
生理食塩水は0.9%塩化ナトリウム水溶液。塩化ナトリウム、つまり「塩」
500mlのミネラルウォーターに5gの塩を混ぜると1%塩化ナトリウム水溶液になり、ほぼ生理食塩水になります。
塩は・・・藻塩がいいとか天然塩がいいとかにがりが決め手、とかそんなんはありません。
もしくは「牛乳」
牛乳も保存液としては優秀。
ただし、低脂肪乳とかロングライフ牛乳はダメ、なんだそうで、なんでダメなのかの理由を探しましたがよくわかりませんでした。
また、子どもがちゃんと意識があり、誤嚥する可能性がないならベロの下、舌下に抜けた歯を保管して(?)歯医者さんへゴー。
・・・まぁ行った歯医者さんでどのくらい以下のことをサラサラとやれるかはそこの歯医者さん次第なんですが。
その歯医者さんでやることは・・・
5:歯科医院では・・・
問診、診察、X線写真撮影などで顎の骨が折れてないか、余計な歯などが埋まってないかを確認。
次に抜けた歯を生理食塩水で洗浄し、抜けた穴も洗浄。
次に抜けた歯を抜けた穴に戻す。
戻した歯が定着するまで周辺の歯と固定する必要があります。
固定の仕方は様々で、歯と歯の間をスーパーボンドという強力接着剤(?)で止めるだけのこともあれば、
絵のようにワイヤーを当ててそれぞれの歯で接着固定する場合もあれば、
硬いワイヤーではなく動きのある硬めのゴム(リングレットなど)で弾力性・柔軟性のある固定をする場合もあります。
細いワイヤーを八の字に縫うように歯に巻き付けて固定するという古い方法もありますが、今そういうやり方をする先生は少ないと思います。無駄に大変なだけ。
固定期間は一応約2週間。
ということになっていますが、足りないと延長します。問題はずっと固定していると成長阻害を起こすことです。
大人なら成長しないけど子どもの場合日々成長するので、長く固定しているとよろしくありません。
6:処置が終わったら
出された抗生物質は必ず飲みきってください。
また固定したといっても歯に限らず全ての治療の基本は「安静にすること」です。
出来るだけその場所は使わないようにして、食事もその場所で咬むのを避け、不意に当たっても大丈夫なようにしばらくは柔らかめの食事にしてください。
その後は基本的に神経は死んでいるので根っこの治療を行います。
それがごくたまに神経が生き返ることがあるんですよね。とはいえホントごくたまに。
7:抜けても戻せない場合もある。
抜けた歯が乳歯は戻してはいけないことになっています。
なぜなら抜けた乳歯は通常壊死して感染源になるので再植できないとなっています。
またくっついた歯根膜で繋がるのではなく骨癒着するので、今度は永久歯の生え替わりの妨げになると言われています。
そのほか
・免疫不全な状態
・重度の先天性心奇形
・重度のコントロールがされていない痙攣発作
・重度の心身障害
・重度のコントロールされていない糖尿病
・歯槽の状態が健全でない場合
も厳しいと言われています。
8:そのほかの外傷
歯の破折:
亀裂や神経が露出している破折や露出してない破折など
神経が露出している(露髄)場合でも神経が残せる場合も多くあります。
ダメかもしれないけれども。
振盪(しんとう):歯が動揺しない程度の歯・歯周組織の打撲
治療はなく様子見
亜脱臼(あだっきゅう);
歯がぐらぐらする歯周組織のダメージ
治療としては固定したり咬合調整したり。様子見だったり。
側方脱臼:
歯がズレる
できるだけズレを戻して固定。
陥入(かんにゅう):
歯が奥に入り込んでしまう
基本的には出て戻ってくるのを待つ
提出(ていしゅつ):
歯が伸びたようにズレる
ゆっくり押し込んで固定
9:外傷が起きやすい年齢
歯の外傷は1~2歳の乳幼児、7~8歳の学童に多い傾向があります。
乳幼児は運動発達がまだ未熟だから。転倒が多く、次いで衝突、転落、打撲と続きます。
7~8歳もやはり原因としては転倒、衝突、転落、打撲が多いのですが、その理由としては交通事故、暴行、スポーツ外傷といった乳幼児のような日常生活上で起こる、というわけではありません。
スポーツでも衝突、転倒、接触などが多い場合は
マウスガードやプロテクターを使用し
外傷のリスクを軽減しましょう
参考文献:
この記事を書いた人
サクラ歯科医院 院長 松本亨
1974年 佐賀生まれ
1993年 日本大学歯学部入学
1999年 日本大学歯学部卒業、歯科医師免許取得、東京医科歯科大学歯学部第一口腔外科(当時)入局
2008年 サクラ歯科医院 開院
小金井歯科医師会公衆衛生担当理事
サウナと旅行、写真撮影、お絵描きが好き。
イラストについて
使用したイラストは世界中で愛されている「いらすとや」様を主に使っていますが、さしもの「いらすとや」でもないものもあります。ないものに関しては、「いらすとや」の絵を編集加工したり追加したり、また私が「いらすとや」風のイラストを描いています。著作権に関しては「いらすとや」、またサクラ歯科医院に属しています。