国民皆歯科健診って・・・

沿って | 2022年6月17日

先日、政府が歯科健診を義務化して全体的な医療費の削減を、ということを発表しました。

以前より歯科医療による口腔ケア、オーラルフレイルの予防が全身の健康維持・増進に寄与するというのは言われていて、実際そうだと僕も思っています。

ただし、一部界隈が喧伝している「歯周病ケアにより、心筋梗塞、脳梗塞、癌、糖尿病、高血圧などを”予防”する」はさすがにそっちの専門医からぶん殴られるんじゃないのか?と思います。
原因の一つとして歯周病があるのは確かなので、リスクを減じることはあると思いますが、”予防”するというとあたかも歯周病がその病気の主原因のようです。んなこたーない。

 

それはそれとして。

現実的に国民皆歯科健診が出来るのか、というと多くのハードルがあります。

 

金は?

歯科健診はだいたい一人5000~6000円くらいで計算されています。

さて、小金井市の総人口は約12万です。
そのうち毎年の歯科健診が義務化されているのが高校生までなので、小金井市が公表している表によると19歳までの人口が約2万人。つまり、あらたに皆歯科健診をと考えている人口は残り10万人。

歯科健診一人の予算を仮に5000円としたら小金井市だけで、追加で5億円必要になる計算です。しかも1年だけで。
これが政府が義務化、と言うのであれば当然「無償」でしょう。全国に及ぶとなるとどんな予算になるのやら?

それを補填するために増税するの?

 

人は?

これは以前からマスコミの言う「歯科医院はコンビニより多い。歯科医師は多すぎるのだ、だからワープア歯科医師が増えてるんだ」という意見に対するアンチテーゼとして
「今後起こる予防歯科の流れ(今もうそういう流れだけど)で国民が予防のために健診をするようになると、むしろ歯科医師が足りない」

と言われていました。

皆歯科健診となるとまさにそれになります。

僕が小金井歯科医師会の理事をやっているから、というのもありますが、
小金井市は成人歯科健診をやっています。
これは5年毎に無料の歯科健診を促している小金井市の事業です。
これは小金井市が小金井歯科医師会に事業委託して、対象となった市民に歯科健診の紙が送られてくるのでそれをもって小金井歯科医師会会員の歯科医院に健診を受けにいくのです。
市民は無料なので、僕ら歯科医師は健診表を提出することでその費用を弁済するという仕組みになっています。

そんなインフラが出来ているので、国民皆歯科健診がスタートした場合、そのインフラをそのまま使うことが考えられます。その方が自治体も楽だから。

すると、10万人の健診を小金井歯科医師会会員クリニック51医院で回すという状況になります。非会員も含めたとしても100もいきません。

51医院の歯科医院だから51人の歯科医師というわけではなく、ウチでも僕と副院長の二人でやっていますし、近所の沼澤デンタルクリニックさんはもっと歯科医師がいます。

でも、全国の7割が一人歯科医院なので(令和3年度歯科医業経営総合調査報告)、テキトウな目算だけどせいぜい60人と仮定しましょう。

すると、10万÷60で、一人あたり1667人。週休2日で月に20日働くとして他の患者さんもいるから、毎日2人健診をしたとして月に40人。なので健診が終わるのに41ヶ月かかります。4人診たとしても20ヶ月です。毎年の健診なのに1年で終わりません。

しかも訪問診療でないと診ることが出来ない患者さんは?

なので現実的に不可能になります。

 

で、結局、検討している方法としてはだ液を検体にして、そこで歯周病リスクを判断して、リスクが高いと判断された方に歯科健診を促す、という方法だそうです。

 

骨太の方針・・・だと?

 

さらに言うとだ液から歯周病リスク、というのは潜血反応が主に使われるそうなのですが感度はあまり高くないそうです。

 

すぐにどうこうなることでもなく、少しずつ道筋をつけて拡充していく、とも言えるのですが、
現時点では、歯科医師、歯科医師会・歯科医師連盟の票を期待した参院選対策なんじゃないの?と訝しんでしまいます。