AX(アックス)読了

伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ、「グラスホッパー」、「マリアビートル」に続く第3弾「AX」が気になるなぁと書いた日にkindleで購入し、みるみる読破。

そんなに長くないです。

主人公、通称「兜」は妻子持ちの殺し屋。本業は文房具メーカーの営業、本名は「三宅」。そして一番怖いものは「妻」。
20年以上のキャリアを持つ殺し屋は恐妻家。家では常に妻の機嫌を察知し恐々とした対応をする。そんな三宅(兜)の味方なのか理解者なのか息子の克己は高校生。
克己の父に対する理解的な発言をすると三宅(兜)は涙を流して抱擁したくなる、くらいに妻を恐れている。だけど、愛している。

裏の仕事上、遅く帰ってくると妻は寝ている。物音を出して起こしてしまうと不機嫌の極みになって朝が大変。
「彼女の吐いた溜め息が積もって、床が見えなくなる。比喩では無くて、本当に息が苦しいんだ。」

でも、一仕事終えてお腹は減っている。
そんな兜の夜食は、
カップラーメンはビニールを破る音、蓋を開ける音、お湯を入れる音、などうるさいので論外、
バナナか、おにぎり、と考える奴はまだ、甘い。たまに(年に2~3回)妻が起きて夜食を作ってくれる、そんな場合おにぎりやバナナは日持ちしないのでダメだ。
最終的に行き着くのは、「魚肉ソーセージ」。あれは音も鳴らなければ、日持ちもする。腹にもたまる。ベストな選択だ。

そんな話を「マリアビートル」に出てきた殺し屋コンビ「蜜柑」「檸檬」に話す。
あぁ、この話をしている時の彼らはまだ生きていた。
檸檬は「兜、おまえは今、非常に情けない話を、これ以上ないくらいに格好良く語っているぞ。感動だ」と拍手する。

兜はそんなキャラクター。

 

兜は裏の仕事を辞めたがっている。仲介者の医者に何度も言っている。でも円満退職?するには相当な金がかかるらしい・・・。

 

伊坂幸太郎の殺し屋シリーズは、凄惨な現場や、それなりのアクション描写はあるのに、あまり気にならない。そんなのは本筋ではないから。
本筋は、殺し屋達の、心の内。
そこに魅力があり、引き込まれる。

決して、殺し屋は、人の命を何度も絶ってきた業で、幸せにはなれない。それは兜も。懊悩する。

グラスホッパーでは自殺屋の「鯨」はそれに潰れた。

全シリーズに出ていて、もはやレジェンドの殺し屋「槿(あさがお)」だけが、淡々としている。彼は存在感が薄い。だから業に潰されないのだろうか。
いつか槿を主人公にした物語を書いて欲しい。

 

そして、殺し屋で恐妻家だけど、兜は愛すべきお父さん。ごく普通に微笑ましい妻子持ちなのである。威厳のある父親、からは対極にあるけど、家族を守るために、妻の機嫌を損ねないように、家の庭に出来てしまったスズメバチの巣を撤去すべく、夏に厚手のセーターにスキーウェア、軍手に、フルフェイスヘルメットにガムテープで隙間埋めての雪だるまのような格好でスズメバチと対峙する。暑さに朦朧としながら・・・。

そんな未成年の時から感情がわからなくなるような人生を送ってきている中で、感情の中で生きている家庭を守るためにお父さんはいろいろ頑張る。だから、兜は仕事を辞めたがっている。だから・・・

 

以下少しだけネタバレ。

 

 

 

 

お父さんは、兜は、死んでもなお、家族を守る、お父さんだった。

それが兜の持つ「蟷螂の斧」であっても・・・。

同じ妻子持ちとしてはじわっと目に涙を浮かべました。