12時間以上

堀ちえみが舌癌のステージⅣということを公表し、手術は12時間以上だとか。

口腔外科に所属していたけどメインで大きいオペをやったようなキャリアがあるわけでもなく、エビデンスに基づいた解説をできるわけでもする気も、そもそもする資格もないのですが・・・。
そもそも、僕は唇顎口蓋裂グループにいて、癌の方じゃないので、唇顎口蓋裂のオペには必ず入っていたのですが、癌の方は入ったり入らなかったりだったので。

 

あくまで曖昧になった当時の記憶として、ある意味本筋から外れた話を。

前日、人によってはやはり直前と言うことで眠れない場合もあるので睡眠導入剤を飲む場合もあり、
当日、オペ室に移動。

オペ室では麻酔科医がすでにスタンバイしており、オペ台に患者さんが移動したら麻酔導入へ。

当時(今も?)外来サイドと病棟サイドに別れ、手術側の病棟サイドはグループで動くのですが、当時の僕のような2~3年目の下っ端達も役割が別れています。
全員がオペ室に入って受け持ちの患者の通常業務(消毒や交換とかもろもろ)が滞るワケにはいかないので、オペ室外の業務を受け持ったり、
オペ室に入るけど、オペ着には着替えるけど滅菌された手術衣は着けず、写真を撮ったり、手を汚せない先生方の代わりの雑務をする外回りをしたり、
手術衣に着替えて手術部位を見やすくするための引っ張る道具をひたすら持ち続ける鈎持ち係とか。
もうちょい上になると出血部位の吸引とか電気メスで止血したりとかそんな感じになったり。
経験値によってやれる、任される範囲が増えていきます。そうやって後継が育っていきます。

 

麻酔導入されたら、オペ予定の場所を幅広く清拭(せいしき)消毒し、手術部位以外をディスポーザブル(か、滅菌された)布(ディスポは丈夫な紙?の様な素材)で覆われます。

その頃にオペをする先生が登場したりします。よくテレビにあるように腕を上げていたり、腕組んでいたり。

で、実際のやりやすいような細かい位置決めを指示したり。

そして、切開する部位を専用の液を使って線を引きます。実線だったり破線だったり。また閉創縫合のための指標としての点々だったりも。

 

そして、偉い教授先生が切開を一筋入れて、周囲が「お美事です!」「お美事です。」「お疲れ様でした。後はワタクシが・・・」なーんて言ったりありませんでした。確かそんなの「医龍」(乃木坂太郎、小学館)で見た気が。それとも「ブラックジャックによろしく」(佐藤秀峰)だったっけ?

 

それはともかく。

舌癌としての部位を切除するパート。
切除された部位に癌細胞が残っていないかをすぐに病理に調べてもらう(切除面に癌細胞が残っていると、癌細胞を取り切れていないことになるので)。

もし、顎骨に癌細胞が浸潤していることがわかっていた場合、顎骨も切除します。範囲は様々。最悪、顎関節から下、顎半分を切除することも。
その場合は、顎の位置が術前術後で変わらないように半固定をし、顎関節部位と残った半分の顎骨をつなぐように金属のプレートを使用したり、もう少し顎の形態になるように金属やそれ以外素材を使ったメッシュトレーを使用したり(その際人工骨や身体のよその骨から取ってきた海綿骨って入れてたかな?覚えてません)。また肋骨あたりを上手く利用して再建する場合もあるようです。

また、頚部リンパ節に転移しているので、リンパ郭清(かくせい)を行うパート。
首の側面をY字に切ったり、コの字に切ったり、デカい胸鎖乳突筋を切除したり残したり。
最近はどういうのが主流なのかさっぱりわかりませんが。

舌を切除した後の再建で皮弁を使うようですが、腕だったり大胸筋だったりが主ですが、そこの再建に使う部位を動静脈を確保するオペをするパート。
これはメインの先生とは違う先生がどこかで同時進行していきます。

そして、その皮弁を切除部位の代わりに再建するために動静脈をつなぐマイクロスコープを使ったオペになり、いろいろ繋げたら、縫合。
皮弁はそのまま形態を作って再建するだろうけど、
腕や胸から引っ張られたところ繋げたままで、再建部位によっては血流が安定したら改めて切除する場合も。

マイクロスコープで10倍以上に拡大された視界で、先生が細かく血管を縫うのですが、傍から見ていると縫合糸は、ほとんど見えません。たまにライトに反射してキラッと糸状に見えるくらいです。
術者以外にも見えるようにモニターがあればそれを見られるのですが、外部モニターがないタイプだと、下っ端は基本的に暇です。見えないし。
しかも、普通は頭を斜め下にして患部を見るのですが、マイクロスコープなので姿勢良く前を見ます。
初めてその光景を目にしたときは違和感しかありませんでした。
身体の姿勢が手元を見てないんだもん。

その途中で、ガーゼの枚数やら、縫合針や道具の確認をしつつ、いろいろ閉創し、オペ終了。

ずーっと管理していた麻酔科医が、覚醒作業に入り、覚醒が確認されたところで、オペ台からストレッチャーに移動し、ICUかそれに準ずる部屋へ戻ります。

担当医が、ご家族に説明を行い、
先生方はナースステーションで各種モニターを確認したり、オペ看やオペ室担当の人、麻酔科の先生方にお礼を言いにいったり、寿司を差し入れしたり。
また、僕ら下っ端はその手伝いや、上の先生に聞きながら手術記録を書いて(描いて)見せつつ「何見てたんだ」と怒られてみたり。

 

オペが9時からのスタートだとしても、8時半にはオペ室入りするので、遅くても7時半には僕らは集合します。

上に書いたようにパートで別れるのでずっとオペ室から出られない、ということはないのですが、12時間のオペだとしても終わるのは夜の9時。そこから覚醒や、安定の確認があるので僕らが解放されるのは最低でも夜11時。
予定通りいって15時間とかもあるし、予定通り行かなくて、ということもあるので、深夜1時を過ぎることもあり、
主なオペを担当した先生は大概そのまま当直入りしていました。気になるからね。
そういうこともあり、差別的な意味ではなくやはり女性の外科医は体力的に大変なのです。
僕ら下っ端は、帰ったり、帰らなかったり。

当時、僕はお茶の水にある医科歯科から6キロちょい東にある亀戸に住んでいたので、長いオペが予定されている場合は、自転車で出勤していました。終電逃しても帰れるように。
だから亀戸に住んでいたんだけど。
僕は睡眠が2時間程度になろうと、家に帰って寝たい人でした。風呂にも入りたいし。
ちなみに亀戸-お茶の水間は、蔵前通りほぼ一直線で、当時乗っていたクロスバイク(自転車)で25分くらい。

 

先生方の生理現象は?
というと、術中は案外平気だったりします。空腹は気にならない程度に我慢できるし、尿意もあまりありません。

僕がメインでオペをする機会はキャリア的に当然少なかったのですが、そもそも2~3時間程度です。

先に述べた流れの経験で印象的だったのは、
僕は最初外回りで写真撮影係でした。だから、患者がオペ室に入る前にいて、最初の切除パートまで、外回り、その後少し休憩して、手術衣に着替えて鈎持ちのお手伝いをする予定だったのですが、
写真を撮ると言ってもビデオ録画するわけでもなく(今は真上にそういうのあるのかな?)、たまに呼ばれては撮影するという感じだったし、僕自身キレイな身ではないのであまり頻繁にオペの場所に近寄れないし、暇。
でも、下っ端なのでいつ呼ばれても良いように緊張して待機。

で、下っ端だからどこでサヨナラしてオペ室を退室していいのかタイミングがわからないので、いつの間にやら休憩を入れずに、お着替えして鈎持ちパートへ突入。

結果、9時間くらい食事もとらず、トイレにも行かず。
ところが、全然大丈夫。

とはいえ、所詮は僕は下っ端。緊張していると言ってもその緊張はオペ担当のソレとは質の違うもの。オペをする先生が全てをやるわけじゃないとはいえ、かなり長時間立ちっぱなしで集中を続けているわけです。目も手も疲れるだろうし。

やはり僕ら下っ端から見たらそういうオペをこなす先生方は雲上人ですよ。そりゃま、雲上人達にも更に階位があるわけですが。

ところが、僕ももう歯科医師免許を取得して20年です。下っ端から見たら雲上人なはずなんだけど・・・・自分では全然そんな階位にいる感じがしない・・・・
当然、口腔外科医として最前線にいるわけじゃないしがない街歯医者なんだけど、なんだろう・・・・新人の時に上の先生に見えた光輝さが、自分にはない気がするんだけど、新人から見たら僕は輝いて見えてくれるんだろうか?

 

術中は、家族は当然のように何も出来ることはありません。用意された個室とかに待機しています。
これもまた辛い時間でしょう。
僕は母の手術中、どうしていたかなぁ・・・・6~7年前のことだったけど、さっぱり覚えていない・・・。手術自体は3時間程度だった気がしたけど。うーむ・・・覚えていないのは薄情・・・か?