歯科技工士の映画

歯科技工士が主演、歯科衛生士がヒロインの映画「笑顔の向こうに」が2月に全国ロードショー、だそうです。
しかもこの作品、三大映画祭に次ぐ(という「次ぐ」がどのレベルなのか映画に興味が無い僕にはわかんないけど)モナコ国際映画祭最優秀作品賞を受賞したとか。

しかし、なぜに歯科技工士?その職業にスポットを当てた意図というかどこにインスピレーションを感じたのでしょう・・・軽く検索した限りではわかりませんでした。

公式ツイッターより

そもそも主演の高杉真宙が歯科技工士役に初挑戦!なんて記事がありましたが、そもそも歯科技工士役をやったことのある俳優女優がどのくらいいるのかと。

どんなストーリーかというと、困ったことに公式サイトではSTORY欄に書かれた文字が全然ストーリーになってないというていたらくで・・。監督の履歴とか主演俳優、ヒロインの履歴、音楽提供のこととかおよそ本筋に関係ないことが。公式でそれってマズくないか?

ということで、他から引っ張ってきたあらすじによると、

『洗練された美しい歯を作ると評価が高く、容姿も端麗で“王子”と呼ばれるほどの 若手歯科技工士の大地(高杉真宙)は、新人歯科衛生士として東京郊外のデンタルクリニックで働き始めた幼なじみの真夏(安田聖愛)と偶然再会する。 個性あふれるクリニックの院長(木村祐一)や歯科医師(辻本祐樹)などからの信頼も厚い大地だったが、金沢で歯科技工所を営む父親(池田鉄洋)に、手がけた義歯を見せると「だからお前は半人前だ」と否定され、同時期に義歯を提供した患者(丹古母鬼馬二)にも自分の歯形と全く合わないと突き返されてしまう。 落ち込んでいる大地を励ましてくれる真夏とも喧嘩をしてしまい・・・。患者が真に求めていることを突きつけられた大地が見つめた大切なこととは?』

ということだそうです。

院内ラボがないクリニックで、技工所に発注している場合、患者と歯科技工士が直接関わることはほとんどありません。自費で前歯で患者さんの顔貌に合わせるために技工士に来てもらい見てもらったり調整してもらったりすることはあるのですが。
この映画ではどのくらい技工士が患者さんと関わるのでしょう。予告動画では割と直接的に関わっているようですが。

 

ところで、僕ら歯科医師にとって歯科技工士は必要不可欠な存在です。
にもかかわらず、一部の(多くの?)歯科医師が歯科技工士を下に見て無茶ぶりしているケースが技工士と話をしていると散見されます。
技工士がいないと歯科医師は仕事が回らないくせに。
そして「技工所(技工士)の代わりなんざいくらでもいるんだよ!」ってことは今や口が裂けても言えず、危機的減少傾向となっています。
そこら辺の数字はこちらのサイトを参照ください

 

サクラのスタッフだった子も、歯科技工士の卵でした。非常に気のつく気立てのよいお嬢さんで、退職時にこのような手作りのプレートをいただきました。

その卵も今は新人歯科技工士として働いていて、先日、ウチに治療に来てくれました。前歯のむし歯を治療。
そこでいろいろと話をしていたのですが・・・・

映画では、技工士が主な話だし、こっちの方に話が振られることは無いと思うけど、技工士が作る技工物・補綴物の出来不出来は、当然技工士の腕に左右されますが、根本的なところでは歯科医師の腕に左右されます。
歯科医師の形成がいい加減(物理的・角度的に入らない)、型どりがいい加減(歪みが出る)、型を採った後の石膏流しへの時間などがいい加減(本来のカタチより膨張ないし縮小したカタチになる)では、どんなに腕のいい技工士でもまともなのは作れません。
(いやまぁ・・・腕がよく、かつ担当している歯科医師の癖を見抜いているとそのズレを補正したモノを作ってくれるという神業があるのですが)

それでいて、そういういい加減な治療をする先生に限って、患者さんに入れられなかった技工物の不出来の責任を技工士に転嫁しがち。
以前、2度入らなかった技工物の再製で、そのことで技工士から電話がかかり、
「僕の形成とか印象(型どり)がまずかったんだと思います。だって模型上ではぴったりなんだから、すいません」と謝っていたら、
技工士さんから「先生、あまり謝らないでください。謝られ慣れてないから・・・」と言われました。僕より二回り以上年上の熟練技工士さんがですよ。
話を振ると、「中にはどう考えても先生サイドのせいなのにウチの責任にされる、仕方が無いから無料で再製しますけどね」と。

なので、僕は明らかに技工士側に問題がある補綴物には、技工指示書にちょっと怒り文で再製指示を書くことあるのですが、
どう見てこっち側が悪いでしょってモノの再製には技工指示書に「すいません。印象がよくなかったようで採り直しました。技工料は請求してください」
と、わざわざ書いたりしています。患者さんにもそのように説明します。

上記、歯科技工士減少問題を書いたリンク先には、当然のように減少の理由の第一が、給料の安さをあげられています。
保険の補綴物の点数は低く、そのため技工所への支払いも抑えられ、それでいて無理矢理ただで再製させようとする歯科医師もいる。納期の問題もある。

「やりがい」、に至る以前の問題なのですが、では「やりがい」ってなに?
僕らは、患者さんに接していてキレイに治療したり、キレイで使える補綴物が入ると患者さんから直接喜ばれる。挙げ句「先生の腕がいいから」なんて言われると、思わず「技工士さんの腕がよかったんですよ」なんて言ってしまうけど、
患者さんからのお褒めの言葉は、実際にはほとんど技工士には届かない。
そういえば、僕も技工士さんに「患者さんが喜んでいましたよ」って言ったことがない。今度から言おうかな。

技工士の離職率は高く、3割しか残らないそうです。
20年以上前にテレビで見たドキュメントでも技工士では食ってけないから宝石職人に転職したとかいうのがありました。さもありなん。

給料も低く、やりがいも感じられにくい状況で、何を支えに続けられるのか。

技工士の熟練度に対する製作物の段階として義歯(入れ歯)は後のほうなのだそうです(技工所によると思うけど)。その離職率では義歯を作れるに至る前にやめられてしまう。
また、実入りのいい自費の補綴物に行こうと思っても保険の補綴物をすらマスターしていない技工士が自費の補綴物をってのもね。

映画で、技工士を目指そう、なんて人がでるかどうかわからんけど、技工士減少危機であるならば、その上で受け入れ体制の変革が必要ですよね。歯科医師側の意識改革も。